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仙台高等裁判所 昭和24年(を)625号 判決 1950年2月07日

被告人

原田治郞

主文

原判決を破棄する。

被告人に対し刑を免除する。

理由

職権を以て按ずるに

本件公訴事実の要旨は

被告人は

第一、昭和二十四年六月上旬頃山形市地藏町六十一番地原田金治郞方で小川ヨシエ所有の女物紫色人絹袷一枚外五点を窃取し。

第二、同年七月四日頃同所で右金治郞に対し自分は今回ヨシエさんと一緖に暮すことになり住家も借りつけヨシエの母もその家に行つて待つているのでヨシエの荷物を全部運んで行くからと嘘をいつて小川ヨシエの荷物の引渡方を要求し金治郞をしてその旨誤信せしめ因つて同人から右ヨシエ所有の中古赤塗二ツ重箪笥一桿外衣類等約七十点を交付せしめて之を騙取したものであるというにある。

而して原審が取調べた各証拠を綜合すれば右公訴事実は之を認めることができるのであるが右各証拠が当審で取調べた被告人の上申書の記載を綜合すると小川ヨシエは昭和二十四年四月十七日原田金治郞に嫁して内縁の夫婦になつたが同年五月三十日離別して実家に帰つたもので公訴事実にいうところの小川ヨシエの所有物は同女の嫁入道具等の財産で離別に際して原田金治郞方に置いたままにし爾來金治郞が保管していたものであること及び被告人は原田金治郞方に同居していたものであること等が明らかである、従つて被告人の本件犯行は同居の親族の所持する財物を窃取し又は同居の親族を欺してその所持する財物を騙取したものであるところ刑法第二四四條親族相盜に関する規定は窃盜罪直接被害者たる被害物件の占有者と犯人との関係について規定したもので所有者と犯人との関係について規定したものではないと解すべきであるから(最高裁判所昭和二三年(れ)第一九九八号同二四年五月二十一日第二小法廷判決参照)本件窃盜については刑法第二四四條により詐欺については同法第二五一條第二四四條によりいずれも被告人に対しその刑を免除すべきものである。果して然らば被告人に対して刑の言渡をした原判決は失当であること勿論であつて破棄を免れない。

よつて控訴趣意に対する判断をなすまでもなく刑事訴訟法第三九七條第四〇〇條但書に則り主文の通り判決する。

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